・アップルの第1四半期決算は非の打ちどころがなかった。

・アップルカーは2025年ごろの商品化が見込まれる。

・EV市場は急速に拡大している。アップルは長期的にそれなりの市場シェアを獲得する可能性がある。

・新たな市場への参入が売上高と利益に好影響を及ぼし、アップルの株価にはさらに上昇する余地があると思われる。

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 アップル(NASDAQ:AAPL)が1月27日に発表した2020年10-12月期(第1四半期)決算は、売上高が四半期ベースで初めて1000億ドルの大台をつけ、純利益も過去最高水準を更新した。いずれの部門も一部で市場予想をやや下回ったものの、すべての製品において2ケタの増収を記録した。どこから見ても非の打ちどころがない決算だったが、28日から29日にかけてアップルの株価は続落した。好決算を予想して決算発表前に買い向かった一部の投資家が目先の利益を確定する売りに押されたかたちで、典型的な「セル・ザ・ファクト」(事実を確認した売り)の相場展開だった。また、決算会見で経営陣が4四半期連続で売上高の見通しを示さず、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う不透明感を1つの理由として、控えめな業績見通しにとどめたことが嫌気されたとの指摘もある。

 控えめな見通しを示すのは、アップル経営陣の基本戦略とも言える。特に新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以来、決算発表前後に株価が下がることはあったものの、その影響は一時的なものにとどまった。

 経営陣は1-3月期について、ウェアラブル端末の売り上げとサービス収入の伸びが鈍る見通しを示したが、iPhoneのアクティブユーザーが10億人を超え、端末稼働数も16.5億台となり、10-12月期のiPhone売上高の1割程度を新規ユーザーが占めたとされる中、サービス収入が鈍るとしても業績全体の足を引っ張ることにはならないと思われる。

 アップルは、今後数年中にアップルカーとアップルAR(拡張現実)スマートグラスという2つの新製品の発売が予想される。取扱品目を拡げることで売上高が増加し、さらにアップルは、個人向けAR眼鏡市場の主要供給元となり、長期的には電気自動車(EV)市場で確固としたシェアを獲得する可能性が高い。同社が積極的な手段を講じることで、市場における地位の維持と拡大につながるだろう。こうしたことを念頭に置くならば、アップルは比較的リスクの低い長期投資の好対象だと考えられる。

 アップルは毎年、新たな製品を発表する。通常は、iフォーンやマック、iパッドなどの既存の商品の最新版だが、ときに新たな技術や製品を目にすることがある。最近は、アップルカーとアップルARスマートグラスが今後発表されるとの観測が報じられている。スマートグラスはそれほど刺激的な材料ではないが、EVはアップルにとって(飛躍的な技術進歩として)『第2のiフォーン』になるかもしれない。このEVが話題になった昨年12月23日に、アップルの株価は3%上昇し、時価総額は1400億ドルも増加した。アップルカーについて新たな好材料があれば、同社の株価は大きく動く可能性がある。この新製品の発売がどれほど株価に影響するか、この記事に対する反応が手掛かりを与えている。

 アップルがEV開発を目指し「プロジェクト・タイタン」を立ち上げたのは2014年のことだ。ロイター通信は昨年12月、アップルが2024年の発売を目指していると報じたが、この発売日は延期される可能性もある。

 アップルカーには主に2つの特徴がある。自動運転システムと新たなバッテリー技術だ。アップルのソフトウエアが高品質であることは周知の事実だが、特にいまは自動運転システムの利用が制限されているため、優れた自動運転車というだけでは顧客を呼び込むことはできない。だが、新たなバッテリー技術にはかなり期待できると思われ、他社のEVとの差別化が図れるだろう。ロイター通信によると、新たなバッテリーは従来の製品よりも製造コストが安くしかも効率が良いので、自動車の価格が安くなり、航続距離を伸ばすことができる。ただ、アップルが最初に売り出すモデルは、低価格帯よりも、テスラのモデル3などのような中価格帯になる公算が大きい。

 先ごろ、アップルカーの構想を巡り、韓国の現代自動車との協議を始めていると報じられて以来、現代自動車への製造委託は、ますます現実味を帯びている。韓国の東亜日報(電子版)は3日、アップルが現代グループの起亜モーターにアップルカーの製造を委託し、米ジョージア州ウエストポイントにある起亜の工場に4兆ウォン(約3760億円)を投資すると報じた。2024年からまず年間10万台の生産を目指し、年間40万台まで生産を拡大する可能性があるとしている。両者は業務提携について2月17日の発表を暫定的に予定していると伝えている。

 一方、CNBCテレビも3日、複数の関係者の話として生産委託の交渉合意に近づいていると報じた。ただ、まだ合意はまとまっておらず、最終的には他のメーカーとの提携も視野に入れているとしている。

 このように、アップルが車体組み立て業者を探しいることは事実と思われ、現代自動車は最善の選択肢の1つと言える。アップルはこのプロジェクトについてまだコメントしていない。

 アップルのアナリストとして知られるTF証券のミンチー・クオ氏は、現代自動車が昨年12月に公開したE-GMPプラットフォームで最初のアップルカーを製造すると予想している。現代モービスが部品設計と製造を担当し、子会社の起亜モーターが米国での生産を担当することになるという。EVはスマートフォンよりも40~50倍の部品を用いるので、アップルは部品製造については自動車メーカーを頼ることになると指摘している。現代グループやGM、PSAとの親密な協力関係を利用して、アップルカーの開発期間を大幅に短縮し、商品化につなげるとみている。

 アップルは自動運転のハードウエアとソフトウエア、半導体類、バッテリー関連技術、外形と内装のデザイン、革新的な利用体験、既存のエコシステムとの統合に注力することになる。それでも、早くても2025年以前に実用化されることはないと考えている。

 EV市場はここ10年で急拡大しており、見通しは極めて有望だ。アップルは自動車を発表するには完璧なタイミングを選んだように思われる。ブルームバーグによると、EVは25年までに世界の乗用車販売台数の10%を占め、30年には28%に達する見込みだ。長期的な年間成長率は7.6%になると見られている。

 現在、テスラと中国の一部メーカーの他に、年間数十万台のEVを製造できるメーカーはない。アップルは生産を世界的な自動車メーカーに外注することになるので、25年における市場シェアはおよそ1~2%程度(10万台前後)にとどまるだろう。だとしても、起亜への初期投資はハードウエアだけでも700~1000億ドルの利益を生むので、妥当と言えるとJPモルガンのアナリスト、サミット・チャッタルジー氏は指摘している。

 アップルブランドのEVは大成功を収めるだろう。アップルは新たな市場や産業を生み出そうとしているのではないが、明らかに最高の品質を提供して利益につなげようとしている。EV分野に最先端の技術をもたらすことで、アップルは生産量は少ないながらもまとまった市場シェアを確保するようになるだろう。

 アップルは「オマハの賢人」と呼ばれる著名投資家ウォーレン・バフェット氏の一番のお気に入り銘柄で、バークシャー・ハサウェーの保有株式のおよそ48%を占めている。バフェット氏は今年初め、アップルについて「この世の中で知る限りおそらく最善の事業」だと評価した。また、「この会社の約5%を買った。100%保有したいくらいだ」と述べ、アップルの事業活動や経営陣とその経営哲学が大好きだと語った。EV市場に参入するだけでも、アップルは企業価値を10~15%高めることができそうだ。アップルが秘密にし続けているバッテリー技術が画期的なものであれば、さらに株価を押し上げる要因となり得る。

 ウェドブッシュ証券のアナリスト、ダニエル・アイブス氏は2月3日の顧客向けリポートで、アップルの決算には「あっけにとられた」と述べ、現在およそ2.3兆ドルの時価総額が来年には3兆ドルに達すると予想している。確かにアップルの株価が2020年に80%以上伸びたことを考えると、今後12カ月で30%程度の上昇はあってもおかしいとは思われない。

 ベンジンガによると、決算発表後の各社証券アナリストによるアップルに対する投資判断は総じて強気で、目標株価は概ね160~170ドルの水準となっている。一方、マーケットウォッチによると、アナリスト39人の目標株価は平均147.09ドル、中央値が154.50ドルだ。

 アップルがEVを含め新製品を発表する前に競合他社が新たな技術を開発する可能性もあり、アップルがひた隠しにする技術に対する不透明感も付きまとうが、アップルはかなり長期の投資対象として有望だと思われる。