エヌビディア(NASDAQ:NVDA)は今年もこれまでのところ快調に株価を伸ばして、年初来約130%高となっている。過去5年間を振り返ってみるならば、2018年こそ4割程度の下げとなったものの、それを除けば順調に株価は上伸しており、16年以降の5年間で年率76%程度もの上げを記録してきた。
エヌビディアは、事業の成長を背景として時価総額3,357億ドル(約35兆円)の企業に成長してきた。そして、今後も大きな成長が期待される代表的なグロース銘柄だ。
エヌビディアが投資家の人気を集める理由は豊富にある。16年に50億ドルだった売上高は19年に100億ドルを超え、22年にはほぼ200億ドルに達すると予想されている。昨年6.63ドルだった1株利益(EPS)は、23年には10.5ドルとなるとアナリストらはみている。利益率も上昇しており、売上総利益率は16年の56.6%から現在は63%程度に伸び、売上純利益率は12.2%から2倍余り伸びほぼ26%に達している。
さらに、バランスシートも強固で、現金および現金相当物が100億ドル余りあり、負債比率は30%程度に過ぎない。
そして何よりも、エヌビディアへの投資妙味はその事業の将来性にある。事業の柱となるのは、画像処理などに用いるグラフィック・プロセッサ(GPU)と、省電力統合型のTegra(テグラ)プロセッサだ。同社の製品を利用しているアプリケーションの範囲は驚くほど多岐にわたっている。アマゾン・ドットコム(NASDAQ:AMZN)やマイクロソフト(NASDAQ:MSFT)、アルファベットのグーグル(NASDAQ:GOOGL)、アリババ(NYSE:BABA)、IBM(NYSE:IBM)が急速に展開しているクラウド・コンピューティング事業は、全てエヌビディアの製品を使っている。クラウドのアプリには従来のCPUよりもGPUの方がはるかに適しているため、エヌビディアにはインテル(NASDAQ:INTC)に対しての優位性がある。
5G(第5世代移動通信システム)が拡大すると、自動運転技術などの大量なデータを処理する新たなアプリが数多く生まれる。クラウド技術を通じて膨大なデータを蓄積し、処理し、保護するには、エヌビディアの製品が益々欠かせなくなるだろう。
しかも、エヌビディアは今年、半導体設計を手掛けるアームをソフトバンクグループから400億ドルで買収した。アームはスマホ向け省電力型CPUの基本設計で95%余りの圧倒的な世界シェアを有しており、クアルコム(NASDAQ:QCOM)やサムスン、アップル(NASDAQ:AAPL)などに製品を提供している。さらに、アップルが独自に開発したCPU「M1」はアームの技術をベースにしている。
では、エヌビディアに対する投資に死角はないのだろうか。
株価収益率(PER)や株価キャッシュフロー倍率(PCFR)など様々な業績指標から判断すると、エヌビディの時価総額は同社の業績から大幅に割高な水準にかい離している。一部のアナリストによると、これまでの業績に基づいて、今後の利益の伸びも含めて算出した株価の適正水準は330ドルだ。12月4日の終値は542.33ドルだった。
エヌビディアの事業は今後も成長が続くと期待され、そうした銘柄を買いたいと考えるのは当然とも言えるが、期待に対してプレミアムが付いているとしても、いかにも割高な水準にある。
事業の成長と株価には、基本的には因果関係は認められない。例えば、マイクロソフトの株価は現在214ドル程度で時価総額は1兆6,200億ドルに達しているが、ハイテクバブルが崩壊した後の2002年以降もほぼ毎年約10%ずつ売上高を伸ばし、利益率も拡大してきたが、株価は13年まで30ドル前後で横ばいに推移してきた。
とは言え、割高と言えるのはバリュー投資の観点でみた場合のことだ。先に述べた通り、エヌビディアには豊富な投資妙味がある。進化し続けるクラウドコンピューティング市場が、いまエヌビディアの株価水準に織り込まれているよりもはるかに高い成長を同社にもたらす可能性は、誰も否定できない。
エヌビディアが拡大するクラウド市場の大きな波に乗っていることは間違いない。だが、波に乗って株価が上っているからと言うだけで、エヌビディアを持ち高に加えるべきなのだろうか。心安らかなポートフォリオを構築したいならば、中立的に評価すべきときかもしれない。