米EV(電気自動車)大手テスラが12月21日にS&P500種株価指数の構成銘柄に採用される。

 年初来630%近く上伸してきたテスラの株価が、さらに上昇に弾みをつけるか、調整局面を迎えるか、市場の評価は強弱入り乱れている。

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 S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは11日、テスラ(NASDAQ:TSLA)を12月21日の取引開始前からS&P500種株価指数とS&P100種株価指数の構成銘柄として一括採用することを正式に発表した。

 テスラの株価は11日の終値が前日比17.08ドル(2.72%)安の609.99ドルで、その後の時間外取引でさらに2.44ドル(0.40%)下げ607.55となった。11月16日にS&PがS&P500種への採用を発表して以来、テスラ株は200ドル近く上伸し、時価総額は5,782億ドル(約60兆0,163億円)に達している。株価は12月8日に654.32ドルのザラ場高値をつけてからやや調整しているが、株価指数への一括採用が確認されたことで、「セル・ザ・ファクト」(事実を手掛かりとした売り)がもう少し進むかもしれない。

 ただ、株価指数に連動した運用を行うインデックスファンドは、テスラがS&P500種の1%余りを占めることに伴い、同社株を700億ドル以上買い入れる必要が生じると報じられている。

 テスラの株価水準については、市場の評価が分かれている。世界各地で地球温暖化対策が大きな課題とされ、自動車業界は温暖化ガスを排出しない電気自動車(EV)へのシフトが加速している。EV業界のパイオニアとして、テスラの将来性はますます高く評価されている。

 ベンチャーキャピタルのループ・ベンチャーズ(Loup Ventures)は、テスラに対して強気な投資家の筆頭とも言えるだろう。今後3年以内にテスラの株価はさらに300%上り時価総額は2兆ドルに達するとみている。自動車産業にとどまらずさまざまな業界の常識を破るテスラの技術力を高く評価している。

 ループほどではないが、ジェフリーズもテスラの今後について強気に評価している。自動車だけでなく蓄電池装置から自動運転車に至る幅広い分野で事業展開しており、テスラのビジネスモデルには競争上の堅固な優位性があると指摘している。

 ただし、警戒材料も示している。EV産業の規模や構造、この業界に対する政策対応から考えると、テスラが業界を支配できるとは考えられないと言う。2021年は、大衆性の高い2つの新車種を発売して、業績をさらに伸ばすだろうが、生産規模とバッテリー開発への投資拡大には実行リスクがある程度伴うとしている。

 ジェフリーズはテスラの目標株価を650ドルとし、投資判断は「バイ」から「ホールド」に引き下げた。

 JPモルガンはテスラが2010年にIPO(新規株式公開)を行って以来、一貫して弱気に評価している弱気派の代表格だ。

 テスラの株価は従来のどの投資尺度からみても、驚くほど大幅に「買われ過ぎ」の水準にあると指摘し、例えば、自動車業界の中で株価収益率(PER)を比較した場合、どこよりも突出して割高だと言う。テスラの業態が単なる自動車産業ではないという意味からすると、この比較は当たらないかもしれないが、どの業態のどの企業との比較においても、名目上の尺度は明らかに買われ過ぎと言えるとしている。

 さらに、過去2年間で株価は800%余り上昇してきたが、2021年~24年の予想EPSは低下していると指摘した上で、S&P500種指数に採用されても、この指数と同じ比率で持ち高に加えないよう推奨している。

 技術力や生産力に対するリスクは以前よりもかなり薄れたが、EVに対する需要やEV業界での競争激化を考慮した場合、より低価格な車種をより大量に供給するための生産拡大には大きなリスクをはらんでいると思われると言う。

 JPモルガンは目標株価をわずか80ドルから90ドルに引き上げたが、投資判断は「アンダーウエイト」としている。

 一方、モルガン・スタンレーもテスラに対してはやや慎重に評価しており、目標株価を540ドルとしている。

 テスラのEV販売だけでなく、自動運転機能の更新サービスの利用浸透率やユーザー平均単価(ARPU)の見通しを基に、2030年までの10年間で現在25%のシェアが14%程度まで低下すると予想している。

 モルガン・スタンレーが指摘しているように、今後、10-12月期決算の発表までに、20年度の出荷台数や生産拡大余力、新型車種や21年度の業績目標など、テスラの今後を考え直す材料は豊富にある。

 指数採用を先取りした株価上昇が調整されるとみるならば、短期的にはフェイスブックが7年前にS&P500種指数に採用された当時のように、直近高値から1~2割程度の調整はあり得るのかもしれない。

 仮に株価水準が調整されるとしても、中長期的にテスラがどのように評価されるかは、しばらく見解が分かれるかもしれない。