・電気自動車(EV)大手テスラは、2020年の強気相場をけん引した主役の1つだった。今年も年初から株価が続伸している。

・いまや7,000億ドルに近い時価総額は、テスラの将来性に対する高い評価を反映しているが、同社のEV業界における先駆者としてのアドバンテージに影がさしているとの指摘がある。

・欧州の成熟したEV市場で、テスラのシェアが低下しており、成長著しい中国市場でも廉価な新興メーカーにシェアを奪われている。

・生産力を高めて値下げを行えば、シェアはいくらか回復できるだろうが、今後も時価総額を維持し続けることができるか、株式市場全体に影響力を増したテスラから今年も目が離せない。

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 電気自動車(EV)大手テスラ(NASDAQ:TSLA)は、2020年の強気相場をけん引した主役の1つで、今年も投資家の注目を集めている。6日の取引でも続伸し、ザラ場高値は774.00ドル、終値は755.98ドルといずれも過去最高値を更新した。

 時価総額は6,968億1,000万ドル(約71兆9,500億円)に達し、他の新エネルギー社(NEV)メーカーのみならず、従来の内燃機関を搭載する自動車メーカー各社をも圧倒している。

 この1年間で8倍余り上昇した同社の株価に対しては、アナリストの評価が大きく分かれているが、総じて「ニュートラル(中立)」とされている。投資情報サイトのシーキング・アルファ(Seeking Alpha)によると、33社のアナリストの投資判断は、非常に強気が7社、強気が4社、中立は12社、弱気が6社、非常に弱気が4社となっている。同サイトに寄稿する18人の投資アドバイザーは少し弱気で、非常に強気が1人、強気が3人、中立と弱気がそれぞれ5人、非常に弱気は4人いる。

 モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナス氏は5日、テスラに対する投資判断を「オーバーウエイト」に据え置いた上で、目標株価を540ドルから810ドルに引き上げた。人材、技術、事業モデル、資金調達のいずれについても自動車業界では最も良い位置にあり、特に排ガス規制など環境関連の足かせがない点が重要だとしている。

 バイデン次期米大統領は環境政策に力を入れると公約しており、日本も含め世界各国で地球温暖化対策が目指される中、脱炭素化の流れは当然、テスラにとってさらに追い風になるだろう。このように強気な見方が引き続きある中で、テスラのEV市場全体に占める先駆者としてのアドバンテージが薄れ始めた可能性があるとの指摘がある。

 テスラの納車台数は大半の競合他社を上回っており、市場占有率が完全な逆風に見舞われている訳ではまだないが、一部の月次データでは、競合他社の納車台数が増えている。テスラは生産台数でも、今後の技術開発についても依然として主役だが、中国市場ではモデル3のシェアが下がっている。欧州市場の一部でもシェアが下がっており、世界各地で建設中の工場でモデルYの生産が再び拡大するまでは、テスラについてのバリュエーションに下振れ圧力が加わる可能性がある。テスラ株は現在、競争が激化しても市場シェアは最低限必要な程度に伸び続けるとの見方を反映した水準とも言えるが、この見通しに対するリスクが高まりつつある。

 中国のEV販売台数でテスラは昨年11月、ゼネラル・モータース(NYSE:GM)と上海汽車(SAIC)、広西汽車(旧五菱集団)の合弁会社、上汽通用五菱汽車と、比亜迪(BYD)に次ぐ3位に転落した。車種別ではモデル3は2位だった。

 中国でのモデル3の販売台数は11月に2万1,604台と過去最多だったが、8月まで守ってきた首位の座をまたもや取り戻せなかった。上汽通用五菱汽車の格安EV、宏光E50ミニが急速に販売台数を伸ばしてきたことが一因となっている。

 完全電気自動車(BEV)市場全体におけるテスラのシェアは、2020年上半期(1-6月期)には約21%だったが、宏光ミニが人気を集めるとともに、年初から11月までの合計で約14.5%に低下している。7月から8月にかけてはテスラの納車台数はBEV市場全体の16%以上を占めて首位だったが、販売総数が10万台に達した9月に宏光E50ミニがトップに躍り出た。

宏光が納車台数を大幅に伸ばす中、モデル3のシェアは10月には10%を下回った。ただし、11月には14%近くまで回復しており、12月もさらにシェアを取り戻した可能性がある。11月の時点で、モデル3の年初来のシェアは15%弱で首位だが、発売開始からわずか6カ月で宏光がほぼ11%までシェアを伸ばしている。

 モデル3と宏光は仕様も価格も全く違うが、市場シェアの観点で言うならば、テスラはもはや手の届かない相手ではなくなっている。モデル3は高価格帯のEV市場では圧倒的に優位だが、15万元以下の低価格帯EVが販売台数上位7車種の内5つを占めている。宏光E50ミニのベース価格は2万8,800元だ。

 テスラの高級EV市場における地位は依然として揺るがないようだが、テスラは中国国内でのモデル3の生産を拡大してコストを削減し値下げできるようにして、高価格帯の中でも安くしようと取り組み始めている。中国国内で生産して出荷する割合は、2年前の50%未満から最近では70%を超えるようになってきている。

上海でのモデル3の生産力を最大25万台に高めたことで、モデル3は中国の高級中型セダンとしては最も安い24万9,900元になった。中国で製造したモデルYも33万9,900元まで値下げした。テスラは上海での生産力も拡大しており、2021年を通じてさらに納車台数を増やす見通しだ。

 中国は、テスラだけでなく競合他社にとっても、引き続き大きな可能性のある市場だ。新興メーカーの生産力にはまだ限界があるとの指摘もあるが、テスラのシェア低下は大きな問題になる可能性がある。中国の年間EV販売台数が21年は180万台程度になるとみた場合、テスラが中国国内で27万台を製造して販売すれば、シェアは20年よりもやや高い15%になる。だが、宏光ミニの急激な伸びは続くと思われ、2割のシェアを占める可能性もある。BYDの漢EVやフォルクスワーゲンのID.3が10万台半ばでそれぞれ1割近いシェアを占め、残るシェアは上海蔚来汽車(NIO)や理想汽車(Li Auto)が埋めるかもしれない。25年までに中国のEV市場は600万台規模に達すると予想され、テスラが15%のシェアを維持するには中国だけで87万5,000台を販売する必要がある。これは現在の納車実績から660%の伸びとなり、実現は難しい可能性がある。

テスラは、さらに3カ所の工場が完成すれば、生産力が強化されるだろうが、今後はBYDや北京汽車(BAIC)、ルノー・日産、BMW、フォルクスワーゲンなどとの競争が待ち受けている。一部の古参自動車メーカーは、欧州市場で強みを見せ始めている。

 EV市場が成熟しているノルウェーでは、19年の新車販売台数の40%をEVが占めたが、テスラのシェアは20年に首位から7位まで転落した。アウディやフォルクスワーゲンが上位を占める中、1月から11月にかけての納車台数は前年同期比で75.5%減少した。スウェーデンでは、テスラがEV市場全体の18.3%を占め、モデル3は13.3%のシェアを獲得しているが、ノルウェーと同様に20年6月以降は車種別売上高でフォルクスワーゲンのId.3に首位の座を譲っている。オランダでもフォルクスワーゲンが価格で優位に立ち、わずか4カ月でテスラの販売台数を上回った。

 テスラの販売台数は依然として堅調ではあるが、欧州でも中国でも低価格車種との競争にさらされている。低価格車種は、20年後半から弾みがついている。テスラのEV市場における排他性と先進性が、新車を購入する意欲をかき立ててきたが、手頃な価格を志向する動きが生まれているようだ。テスラは現地生産でコストを抑えて販売価格を引き下げ、2万5,000ドルでも利益の出る生産体制を整える取り組みを進めることで、市場シェアをある程度は回復できるかもしれない。だが、欧州市場でも分かるように、中国市場もさらに成熟するに連れ、テスラが2桁台のシェアを維持するのは難しくなるだろう。

 現在7,000億ドルに近いテスラの時価総額はある意味、同社が最低限現在のシェアを維持することを要件としているが、バリュエーションの高さを完全に正当化するには、シェアを20%に向けて回復する必要があることを意味しているとも言えるだろう。

 生産力を拡大してさらに値下げすれば、昨年失ったシェアをいくらか回復できるかもしれない。テスラはEV業界の先駆者としての地位と引き換えに、手ごろな価格という重要な要素を1つ失っている。競争はまだ始まったばかりだ。テスラは自動車メーカーとしてよりも、ハイテク企業として高い評価を受けているようだが、この時価総額を維持するには、イノベーションだけでなく、増収増益につながるシェアの拡大が必要とも言えるだろう。

 テスラが昨年12月21日にS&P500種株価指数の構成銘柄に採用されたことで、同社株はパッシブファンドの組み入れ対象にもなっている。市場全体への影響力がさらに高まっており、今年もテスラの動向からは目が離せない。

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