・ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンは、電気自動車(EV)メーカーへの転身を急速に進めている。
・フォルクスワーゲンの野心的な目標が現実に達成されれば、近い将来にEV世界最大手の座をテスラから奪うことにもなるだろう。
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ドイツの大手自動車メーカー、フォルクスワーゲンは昨年、新車販売台数が1000万台近くで世界第2位だった。ゴルフなどの大衆車からアウディ、ポルシェ、ベントレー、ブガッティ、ランボルギーニなどの高級車まで数多くのブランドを傘下に従え、バイクや商用トラックも扱っている。
2015年にディーゼル車の排ガス不正問題が発覚し、同社の株価は3割以上も急落し、当時のCEOは辞任し巨額の罰金を支払い、いまだに多くの訴訟を抱えている。
この暗い過去を振り払うかのように、フォルクスワーゲンはクリーンエネルギーのEVメーカーへの転身を図っている。新生フォルクスワーゲンは、25年までに50車種のEVモデルを揃えて、30年までにはすべてのラインアップをEVかハイブリッド車(HV)にすることを目標にしている。
この目標達成に向けて、同社は全固体リチウム電池を開発するクアンタムスケープ(NYSE:QS)に出資し株式の25%を取得している。そして、今後12年間にわたり年間20億ユーロ(約2600億円)をEV開発向けの設備投資として予算化している。
さらに、今後5年間のEVとAVに対する設備投資と研究開発費として1500億ユーロ(約19兆3800億円)を計上した。25年までにソフトウエアの開発に270億ユーロ、EV用バッテリーの開発に350億ユーロ、HV開発に110億ユーロを充てる。アナリストらの試算によると、この間に予想されるテスラの予算の2倍で、GMとフォードの合計予算よりも大きい。
フォルクスワーゲンは、自動車生産台数で世界トップのトヨタ自動車が目標とする数字の3倍以上にあたる300万台のEV生産を25年には達成するとしている。
同社はこの意欲的な目標に向けて順調に滑り出していて、19年から20年にかけてEVの販売台数が3倍に伸びている。欧州大陸市場ではいまや断トツの販売シェアを誇りさらにシェアを拡大しつつある。中国での販売シェアは19年の5.5%から20年には6.3%に拡大し、米国市場では20年に25万台余りのEVを販売しシェアは前年の2%から11%に伸びた。世界全体で見ても販売シェアは9%を占めるようになっている。今後5年間の生産拡大が成功につながるか確実な保証はできないものの、滑り出しは十分期待できる状況だ。
19年にポルシェが完全EV「タイカン(Taycan)」を発表した際、同社の予想をはるかに上回る3万件の予約手付金が集まった。また、フォルクスワーゲンがEV「ID.3」ハッチバックタイプの予約を開始した際には、同社のサーバーが一時落ちるほど多くの需要を集めた。
世界有数の自動車メーカー各社がEVの未来図を明確に構想してEVに舵を切る中で、フォルクスワーゲンもこの新たな世界に果敢に挑戦している。
EVは20年の段階でフォルクスワーゲンのポートフォリオ全体の2.5%しか占めていないが、前述したように今後4年間で大幅に生産を拡大する計画だ。同社がEVへの転換に成功すれば、テスラに肩を並べることも夢ではないだろう。
両社を比べてみると、フォルクスワーゲンはこれまでにEVに約2兆6000億円余りを投資しているが、これはテスラとほぼ同じ規模だ。そして今後を見渡すと、フォルクスワーゲンは設備投資と研究開発費にテスラの2倍にあたる9兆5000億円を投じる予定でいる。
テスラは25年に昨年の5倍にあたる250万台のEVを販売する可能性が高いが、フォルクスワーゲンが目標に掲げる300万台を達成すれば、EV世界最大手の座を奪うことになるだろう。
フォルクスワーゲンの時価総額は3日、UBSが目標株価を300ユーロに引き上げたことを手がかりとして1000億ユーロ(12兆9400億円)を超えた。一方、テスラの時価総額は、1月末に一時8000億ドルを超えたが、足元では約6000億ドル(65兆円)となっている。
フォルクスワーゲンはまだ過去の負の遺産を引きずっているが、テスラに匹敵するEV企業への転身に成功すると考えるならば、将来性はまだ十分にあると考えても良いのかもしれない。