• 米国株市場は足元でボラティリティが高まり、相場全般は直近の下げから持ち直したものの、ハイテク銘柄の戻りが鈍く、先行きの懸念を呼んでいる。
  • 安定的なインカムゲインを求めるならば、値動きに惑わされず、経営基盤が強固で安定して配当が伸びる銘柄を選ぶべきだろう。
  • 米国に上場されている約7500銘柄を一定の尺度でふるいにかけて、リスク許容度に合わせて5銘柄ずつ3つのグループに分けてみた。

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 昨年11月上旬から始まった米国株式市場の上昇相場が新年を迎えても続いてきたが、足元ではかなり相場の変動率(ボラティリティ)が高まり、大幅な調整もみられた。ダウ工業株30種平均指数は史上最高値を再び更新し、S&P500種株価指数も2月半ば以来の高値を回復したものの、ハイテク銘柄は持ち直しが鈍い。変動率の高止まりが続き、今後の相場動向に対する懸念を呼んでいる。

 相場には「不確実性」が必ず付きまとうことだけは確実に言えると肝に銘じる必要がある。相場の先行きは、明らかにいつも大きな課題だ。

 投資を行う際には、日々あるいは毎週の値動きを追いかけるのではなく、長期的な方針に基づくた方が良いだろう。長期的な配当を狙って投資する場合、相場の短期的な動きにはあまり目を向けず、投資する企業の質に注意して、相対的に割安なときに買うべきだ。

 ここでの目的は、根本的に経営基盤が強固で債務水準が低く、配当の伸びが適度で持続性があり、相対的に割安あるいは妥当な価格の銘柄を見つけることにある。こうした配当銘柄は、すぐに利益を生むことにはならないが、長期的に継続して配当が伸びる安定した投資対象となるはずだ。

 相場は好調な時期であってさえも、波に乗るのは簡単なことではない。また、投資機会を見落として損もしたくない。だからこそ、配当の実績が何年もあり、配当の持続性や増配を維持していて、債務水準が管理可能で低い企業に投資することが何よりも重要になる。相場全体に対して相対的に割安で、過去52週間の高値に対しても低水準で推移している銘柄に常に目を光らせておくことが大切だ。正しいタイミングで利用できるように、投資対象となる銘柄リストを手元に置くようにしたい。ここでは、毎月、そうした銘柄を選び出すようにしている。

 まず、米国に上場されている約7500銘柄をふるいにかける。対象とするのは配当支払いのある銘柄だけだ。バリュエーションが割安なだけでなく、ビジネスモデルがしっかりしていて、これまでも配当を出しており、負債が手に負える水準の投資適格銘柄を対象とする。

 ここではリスク許容度に応じて3つのグループそれぞれに5つの銘柄を選び出してみた。最初のグループは平均配当利回りが2.71%で、比較的手堅い投資対象になる。次のグループの平均配当利回りは5.51%で、さらに高い配当利回りを狙いつつも比較的安全な投資を望む投資対象で、最後のグループは平均配当利回りが7.35%と、高配当を求める場合の投資家対象になる。このグループはリスクも高いので、投資するにあたっては注意が必要になる。

 ここで選ぶのは買い推奨銘柄ではなく、あくまでも銘柄を選ぶ際の手掛かりとしてもらいたい。「絶対安全」と言える投資はあり得ないので、ここで「安全」という場合には、「相対的に安全」という意味だと解釈してもらいたい。

 投資は十分に分散させて、少なくとも15~20銘柄に分けた方が良いだろう。十分に分散したポートフォリオとは通常、各セクターから複数の銘柄を選ぶものだ。ただしここでは、配当性向に焦点を絞り、同時にバリュエーションに妙味のある5銘柄を選別する。バランスのとれたポートフォリオを構築する場合には、高配当だが成長性が低い銘柄や配当性向は低いが成長力の高い銘柄も含めるべきだ。

 ポートフォリオを組む際は、どれくらいのインカムゲインを求めるか、どの程度の投資期間を想定しているか、リスクをどの程度許容するかなど、それぞれの状況に応じて考えるべきだが、判断を下す前に自分で慎重に吟味することをお勧めする。

 S&P500種株価指数の利回りは現在およそ1.50%なので、配当利回りが少なくともこれよりも高い銘柄を選ぶ。ここでは配当利回りが1.75%以上の銘柄を対象とする。時価総額は50億ドル以上で、日々の出来高が10万株以上ある流動性の高い銘柄に絞る。さらに、過去5年間に減配したことのない銘柄を選ぶ。これらのフィルタリングにかけると、330銘柄に絞られる。

 一方、配当性向のみに焦点を絞った場合、25年以上増配を続けているのが142銘柄で、10年以上25年未満は323銘柄、5年以上10年未満が280銘柄ある。

 この合計745銘柄と先の330銘柄で重複しているのは172銘柄となる。条件をやや緩めて配当が横ばいの場合や、外国企業で為替レートの変動によりドル換算での配当額は減ったが自国通貨では増配になっている銘柄も含めると、56銘柄増えて合計228銘柄になる。

 次に、以下の10項目についてそれぞれ順位付けして得点化する。

  • 現在の株価で計算した配当利回り
  • 増配が何年続いているか
  • 配当性向(配当総額÷当期1株利益)
  • 過去5年および10年の配当の伸び率
  • 過去5年の1株利益(EPS)の伸びと今後5年に予想されるEPSの伸びの中央値
  • 負債資本比率
  • 資産負債比率
  • S&Pの格付け
  • PEGレシオ
  • 52週最高値からのかい離度

さらに、以下の上位銘柄を選ぶ。

  • 総合得点(上記10項目の合計得点)の高い上位15銘柄
  • 配当利回りの高い上位10銘柄
  • 過去5年の配当の伸びが高い上位10銘柄
  • S&P格付け上位10銘柄(同率銘柄があったため今回は11銘柄、1つのセクターに集中しないよう各セクター上位2銘柄)

 このスクリーニングの結果、48銘柄に絞り込まれた。ただ、5銘柄が2項目で重複していたので、重複を除いた結果43銘柄となった。さらに、同業種への集中を避けるため、同業種では最大3~4銘柄となるようさらにフィルタリングした結果は以下の通り。

  • モルガン・スタンレー(MS)
  • バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BK)
  • ステート・ストリート(STT)
  • ブラックロック(BLK)
  • シティグループ(C)
  • バンク・オブ・アメリカ(BAC)
  • アフラック(AFL)
  • プログレッシブ(PGR)
  • シグナ(CI)
  • オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)
  • エアープロダクツ・アンド・ケミカルズ(APD)
  • スリーエム(MMM)
  • セラニーズ(CE)
  • ロッキード・マーチン(LMT)
  • ニューモント(NEM)
  • サザン・コッパー(SCCO)
  • アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)
  • タイソン・フーズ(TSN)
  • プロクター・アンド・ギャンブル(PG)
  • レストラン・ブランズ・インターナショナル(QSR)
  • アルトリア・グループ(MO)
  • クロロックス(CLX)
  • メルク(MRK)
  • ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)
  • グラクソスミスクライン(GSK)
  • ロシュ・ホールディング(RHHBY)
  • テキサス・インスツルメンツ(TXN)
  • ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)
  • ブロードコム(AVGO)
  • AT&T(T)
  • ワンオーク(OKE)
  • エンタープライズ・プロダクツ・パートナーズ(EPD)
  • シェブロン(CVX)
  • エンブリッジ(ENB)
  • エクソン・モービル(XOM)
  • アトモス・エナジー(ATO)

 以上の中から投資方針に合わせて好みの銘柄を組み合わせることもできるが、冒頭で述べたように、配当利回りとリスクで5銘柄ずつ3つのグループを考えてみた。

グループA:比較的手堅い投資向け(平均配当利回り=2.71%)

  • プロクター・アンド・ギャンブル(PG)
  • ロッキード・マーチン(LMT)
  • バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BK)
  • ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)
  • テキサス・インスツルメンツ(TXN)

グループB:利回りと安全性を求める投資向け(平均配当利回り=5.51%)

  • AT&T(T)
  • プログレッシブ(PGR)
  • エンブリッジ(ENB)
  • メルク(MRK)
  • シティグループ(C)

グループC:高配当を追求する投資向け(平均配当利回り=7.35%)

  • AT&T(T)
  • プログレッシブ(PGR)
  • エンブリッジ(ENB)
  • グラクソスミスクライン(GSK)
  • アルトリア・グループ(MO)

 グループ分けの条件に合致したためとセクターを分散させた結果、複数のグループで重複している銘柄もある。

 繰り返しになるが、いずれの銘柄にも一定のリスクと懸念材料は付きまとうので、実際に投資する際には、さらに調査検討を加えることをお勧めする。

 それでも、グループAは引退後のインカムゲインを確保したい投資家にとって、基準のポートフォリオを形成する参考になるだろう。この5銘柄は、平均で33年間配当を続けており、過去5年間で配当が年率10.75%、10年間では同12.27%増加している。平均配当性向は2.71%で、いずれも信用格付けは「Aマイナス」以上で、過去52週間の高値から平均11.4%低い水準で取引されている。

 さらにリスクをとるならば、グループBやグループCを選べば良い。グループBの5銘柄は、平均で16年配当を続けており、52週高値から17%程度低い水準で推移している。グループCは52週高値からのかい離がおよそ17%となっている。グループCは配当利回りが高いもののリスクも高いので、万人向けとは言えない。ポートフォリオを組む機会を狙うなら、グループAかグループBの銘柄に注目してみてはどうだろう。