・アマゾン・ドット・コムの子会社が新型コロナウイルスの迅速PCR検査について、米食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可(EUA)を承認された。
・アマゾンは自社従業員向けに使うとして、商用化の意図は示していないが、ウェルズ・ファーゴではその可能性が十分考えられるとみている。
・まだ小規模ながらも成長している臨床検査市場に、アマゾンの破壊力が及ぶかもしれない。
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アマゾン・ドット・コム(NASDAQ:AMZN)の子会社STS Lab Holdcoは3月25日、同社が開発した新型コロナウイルスの迅速PCR検査についての緊急使用許可(EUA)を米食品医薬品局(FDA)に承認された。アマゾンは自社の従業員向けにこのリアルタイムPCR検査を利用するとしており、現時点で商用化を計画しているかどうかは明らかではない。
しかし、ウェルズ・ファーゴのアナリスト、ダン・レオナルド氏は、アマゾンだからこそ、米国の臨床検査市場に直接参入する可能性は十分考えられるとみている。
コロナ禍の広がりを背景として、医療機関以外の企業や個人からも臨床検査に対する需要が生まれている。米国の臨床検査市場は800億ドル余りの規模に過ぎないが、アマゾンの参入により小さいながらも成長する可能性があるとレオナルド氏は指摘している。
現在、米国内で最も多く利用されている在宅検体採取キットは、ラボラトリー・コープ・オブ・アメリカ(NYSE:LH)が提供しているピクセル(Pixel)で、発注から検査結果が得られるまで通常5日かかる。レオナルド氏がニューヨークで発注したところ、カリフォルニア州コスタ・メサから出荷されて届くまでに3日を要したという。「アマゾンの物流網ならば、当日または遅くとも翌日に配達されてもおかしくない。明らかに付加価値がある」と述べている。
ただ、アマゾンが医薬品サービス「アマゾン・ファーマシー」とオンデマンド医療サービス「アマゾン・ケア」を統合して、臨床検査の直販に乗り出す野望を抱いているかどうかは明らかでなく、事業化を図るには時間がかかるだろうとレオナルド氏はみている。
一方、ラボラトリー・コープは先ごろ、ドラッグストアチェーン大手のウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(NASDAQ:WBA)と提携し、ピクセル検体採取キットがウォルグリーンの店頭で入手できるようにした。これにより検査結果が得られるまでの時間が短縮されるはずだとウェルズ・ファーゴではみている。ピクセルは現在、ラボラトリー・コープが提供する新型コロナ検査の5~10%を占めている。
同業のクエスト・ダイアグノスティクス(NYSE:DGX)も、アナリスト説明会で臨床検査の直販に意欲を示し、2025年までに2億5000万ドルの売り上げを目指すと発表した。
いずれにしても、アマゾンが参入する可能性があるため、既存の臨床検査会社は消費者向けに提供する検査の充実を急ぐ必要が高まっている、とウェルズ・ファーゴは指摘している。この点で、いまのところラボラトリー・コープがクエストの一歩先を行っているという。
なお、アマゾンのPCR検査では、中国のゲノム解析会社BGIグループの検査キットを用いており、器材には同じく中国のMGIテクノロジーズや米国のアジレント・テクノロジーズ(NYSE:A)、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック(NYSE:TMO)の製品を使っている。