欧米と中国が今年後半に同時に景気下振れに陥り、世界経済が最悪の事態に巻き込まれるという世界的リセッション(景気後退)のリスクが日ごとに高まっている。ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授(経済・公共政策)が26日、オピニオンサイト「プロジェクト・シンジケート」への寄稿で警鐘を発している。
ウクライナでの戦争が激化し、ドイツがロシアからのエネルギー完全禁輸に踏み切れば、欧州の景気後退はほぼ避けられない。中国は厳格なゼロコロナ政策を続けているため、プラス成長の維持が次第に難しくなっている。米国では消費者物価が40年ぶりの高い伸びとなっており、米連邦準備制度理事会(FRB)が経済成長に打撃をあたえずに経済を軟着陸させる見通しはますます遠のいている。
官民の経済見通しは最近、それぞれの地域で高まるリスクを浮き彫りにし始めているが、おそらくそれらの相互作用を過小評価している。例えば、中国で都市閉鎖が拡大すると、当面は世界のサプライチェーン(供給網)が混乱し、米国ではインフレが上昇し、欧州では需要が落ち込むだろう。通常であれば、これらの問題はコモディティー価格が下がることで弱まることがある。だが、ウクライナでの戦争終結が見通せない中、どう考えても世界の食糧とエネルギーの価格は高止まりする公算が大きい。
また、FRBによる一連の利上げをきっかけとして米経済が景気後退に陥れば、世界の輸入需要は落ち込み、金融市場の混乱につながるだろう。ウクライナでの戦争を契機とした欧州の景気後退は、世界全体の事業意欲と金融市場を根本から揺るがす可能性がある。
米国が景気後退に陥るリスクは明らかに急拡大しており、問題はその時期と震度になっている。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック中に貯蓄が急増したことで、消費需要が引き続き堅調な一方で、サプライチェーンの問題がさらに深刻化する筋書きになる公算が大きい。米政府が中間選挙を控えて景気刺激策を全面的に続ければ、FRBにとってインフレ抑制は一段と難しくなる。
欧州に関しては、ウクライナでの戦争がなかったとしても、中国と米国の景気下振れによる悪影響は免れないが、すでに成長が弱まっている欧州経済に対するリスクとその脆弱性は、戦争により大きく高まっている。ロシアのプーチン大統領が化学兵器や核兵器の使用に踏み切るようなことがあれば、欧州はロシアへの依存関係を断ち切らざるを得なくなり、経済とリスクに対する不確実性はさらに増すだろう。また、欧州各国政府は、国防費を大幅に拡大拡大する圧力が高まっている。
新興諸国や貧しい発展途上国の経済は、世界的な景気後退になれば、明らかに強烈に傷つけられるだろう。エネルギーと食糧を輸出する国々も、戦争の影響を受けた価格上昇の恩恵をいまのところ受けることができているが、問題を抱える可能性が高い。
うまく運べば、世界全体で景気下振れが同時進行するリスクは、2022年末までに薄れるだろう。だが今のところ、欧米および中国でのリセッション(景気後退)の可能性が大幅に高まりつつあり、一つの地域がつまづけば他の地域も巻き込まれるだろう。
ロゴス氏は、政治家と政策担当者が間もなく立ち向かうことになる役目を果たせるか疑問視している。
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